セミリンガルという言葉、使って大丈夫?バイリンガル教育とことばの発達を考える

「セミリンガル」という言葉を聞いたことがある方もいるかもしれません。
これは、バイリンガル教育の文脈で、「複数の言語のどちらも十分に使いこなせない状態」を表すために使われてきた表現です。
たとえば、母語と第二言語のどちらにおいても、年齢相応の語彙力や文法力、表現力が育っていないと判断されたときに、「セミリンガル」とされることがあります。
このような意味合いから、
「バイリンガル育児失敗」など保護者の不安や罪悪感を仰ぐこともあります。
しかし近年の研究では、この用語の使用には注意が必要であることが明らかになってきました。
なぜ「セミリンガル」は推奨されないのか
「セミリンガル」は明確な診断名ではなく、基準もあいまいです。
言語が未発達とされる具体的な指標が乏しく、教育や社会的背景、文化的要因が十分に考慮されていないまま、子どもの能力を一面的に評価してしまう危険性があるためです。
実際には、ことばそのものが育っていないのではなく、「ことばを育てる機会が不足していた」「十分な支援や環境が整っていなかった」といった外的要因によって、両言語の使用が制限されているケースも多く見られます。
そのため、言語発達の遅れが見られた際に、すぐに「セミリンガル」と決めつけることは、偏見や誤解を生むおそれがあります。
セミリンガル的とされる子どもに見られる特徴
- 両言語で語彙が限られている
- 複雑な文の理解や使用が難しい
- 感情や考えをことばで表すのが苦手
- 読解や作文、説明など学習面でも苦労がある
なぜそのような状態になるのか
- 母語が十分に発達する前に第二言語へ環境が移行した
- 家庭と学校で異なる言語を使用しており、どちらも十分な支援がない
- ことばの発達に必要な支援や教育が遅れた
これらの状況は、家庭や学校での言語環境や支援体制と大きく関係しています。
セミリンガルというより、DLDの可能性もある?
「両方の言語が弱いのはDLD(発達性言語障害)なのでは?」と疑問に思う保護者の方もいるかもしれません。実際、その可能性はあります。
DLDは、生まれつきの脳の特性により、言語の理解や表現が難しくなる神経発達症です。
これはモノリンガル・バイリンガルにかかわらず見られるもので、十分な言語インプットや教育支援があるにもかかわらず、ことばの発達に遅れが見られる場合は、DLDの可能性も視野に入れて評価する必要があります。
セミリンガルとDLDの違い(簡易比較)
| 項目 | セミリンガル | DLD(発達性言語障害) |
|---|---|---|
| 定義 | 言語環境の不十分さによる言語発達の遅れ | 発達的要因による言語の習得困難 |
| 原因 | 言語インプット・教育支援不足などの環境要因 | 脳の発達の特性によるもの |
| 言語への影響 | 環境によって影響を受けた言語(両言語) | 全言語に困難が見られる |
| 支援による改善 | 適切な環境があれば改善が見込まれる | 長期的かつ専門的支援が必要 |
| 診断の扱い | 教育現場などで使われる用語 | 医学的・言語的に診断される障害名 |
専門家はどう見ている?
近年の言語研究や教育学の分野では、「セミリンガル」という用語はあまり使用されなくなっています。
その背景には以下のような批判的な視点があります。
- 定義があいまいでエビデンスに欠ける
- 社会的・文化的背景を無視して個人の言語能力を評価してしまう
- 教育的・制度的なサポート不足の影響を反映しているだけである可能性が高い
また、少数言語や移民の子どもに対して、このラベルが不必要に貼られやすいという社会的懸念も指摘されています。
保護者の方へのアドバイス
もしご家庭で「どちらの言語も伸びていないように見える」「話すことや理解に困り感がある」と感じた場合、まずはその子がどれだけ言語に触れてきたか、どれくらいことばを使う機会があったかを確認してみてください。
それでも、「十分な言語インプットや教育環境があるのに、ことばがなかなか育たない」と感じる場合は、言語聴覚士(Speech-Language Pathologist)など専門家への早期相談を検討されることを強くおすすめします。
まとめ
セミリンガルという言葉は、かつて使われてきたものの、今日では研究的にも実践的にも慎重な扱いが求められています。ことばの発達の遅れを見たとき、「環境の問題か?」「発達的な困難か?」をしっかり見極めることが、子どもにとって最適なサポートを受ける第一歩となります。
親としては、「ラベル」よりも「支援の質」と「環境の整備」に目を向けることが、子どものことばの成長につながります。





