バイリンガルの子どものスクールレディネス:オーストラリアで就学準備を成功させるために
オーストラリアは2月に新学年が始まりますね。お子様がFoundation/Prepに入学される保護者の皆様、準備は進んでいますか?
オーストラリアで日本語と英語のバイリンガル環境で育つお子様にとって、就学準備(スクールレディネス)は特別な配慮が必要です。スピーチパソロジストとして多くのバイリンガル家庭をサポートしてきた経験から、入学前に知っておいていただきたいことをまとめました。
スクールレディネスとは?
スクールレディネスとは、子どもが学校生活を成功させるために必要な準備が整っている状態のことです。これには以下の5つの領域が含まれます:
- 身体的発達:細かい運動技能(鉛筆を持つ、ハサミを使うなど)
- 社会性・情緒の発達:友達と遊ぶ、感情をコントロールするなど
- 学習へのアプローチ:好奇心、集中力、粘り強さなど
- 認知発達:数の概念、形、色、パターン認識など
- 言語・コミュニケーション発達:話す、聞く、理解する力
この記事では、特に言語・コミュニケーション発達に焦点を当て、バイリンガルの子どもならではの課題と対策についてお話しします。
バイリンガルの子どもの言語発達:よくある誤解
誤解1:「2つの言語を話すと混乱する」
研究によると、バイリンガル環境が子どもの発達を妨げることはありません。むしろ、認知的柔軟性や問題解決能力が高まることが分かっています。
言語の混在(コードスイッチング)は混乱ではなく、高度な言語スキルの証拠です。バイリンガルの子どもは状況に応じて適切な言語を選択する能力を持っています。
誤解2:「学校が始まるから家でも英語だけにするべき」
これは最も避けるべき間違いの一つです。
子どもの思考力の基盤は母語(第一言語)で作られます。親が無理に慣れない英語だけで話すと:
- 感情の細やかなニュアンスが伝わらない
- 親子のコミュニケーションが浅くなる
- 日本語での語彙や概念の発達が止まる
- 結果的に英語の学習言語力の発達も妨げられる
推奨:家庭では親が自然に話せる言語(日本語)でしっかりとコミュニケーションを取り、豊かな言語環境を提供することが、実は英語の発達にもプラスになります。
誤解3:「日常会話ができれば学校でも大丈夫」
学校で必要な言語力は、日常会話力とは異なります。
日常会話力(BICS – Basic Interpersonal Communication Skills)
- 「お腹すいた」「遊ぼう」「これちょうだい」
- 具体的で、ジェスチャーや状況に助けられる
- 習得に2-3年
学習言語力(CALP – Cognitive Academic Language Proficiency)
- 「なぜそう思う?」に理由を説明する
- 抽象的な概念を理解し説明する
- 文脈なしで理解する(教科書の文章など)
- 習得に5-7年
Foundation/Prepから必要になるのは、CALPの基礎です。
Foundation/Prep入学に向けて:チェックリスト
お子様の準備状況を確認してみましょう。
【聞く力・理解する力】
以下のことができますか?
□ 3-4つの連続した指示を理解して実行できる (例:「鉛筆を取って、ノートを開いて、名前を書いてね」)
□ 条件付きの指示を理解できる (例:「もしカードがあなたのボードと同じだったら取って、違ったら戻してね」)
□ 物語を聞いて内容について質問に答えられる (誰が?何を?どこで?いつ?なぜ?)
□ 位置関係の言葉を理解できる (上、下、隣、前、後ろ、間など)
□ 比較の言葉を理解できる (大きい/小さい、速い/遅い、多い/少ないなど)
【話す力・表現する力】
□ 5語以上の完全な文で話せる (例:「I’m going to play with my toys」)
□ 過去・現在・未来の時制を正しく使える (例:「Yesterday I went to the park」)
□ 順序立てて出来事を話せる (「まず〜、次に〜、最後に〜」)
□ 理由を説明できる (「なぜ?」に「〜だから」と答えられる)
□ 自分の名前、年齢、好きなものを言える
□ 困った時に助けを求められる (「Help me please」「I don’t understand」)
□ 感情を言葉で表現できる (「I’m happy/sad/angry because…」)
【発音・明瞭さ】
□ 知らない人(先生やクラスメイト)にも90%以上理解してもらえる
□ ほとんどの音を正しく発音できる (R、TH、Vなどは6-7歳まで難しいこともあります)
□ 単語の音節を落とさずに言える (「tomato」を「mato」と言ったり、「lunch box」の「ch」を抜かしたりしない)
【社会的コミュニケーション】
□ 順番を待てる(会話のターンテイキング)
□ 相手の話を聞いて反応できる
□ 適切な音量で話せる(教室の中での声の大きさ)
□ アイコンタクトを取れる
□ 話題を維持できる(自分の好きなことばかり話さない)
バイリンガルの子どもの評価:重要なポイント
上記のチェックリストで当てはまらない項目が多くても、すぐに心配する必要はありません。
バイリンガルの子どもを評価する際の重要な原則:
両言語の総合力で評価する
バイリンガルの子どもは、1つの言語だけで評価してはいけません。
例えば:
- 日本語で「りんご」と言える
- 英語で「apple」と言える → これは2つの単語としてカウントします
概念の理解は言語を超えて共通です。お子様が日本語で「大きい/小さい」の概念を理解していれば、英語で「big/small」という単語を学ぶのはずっと早くなります。
一時的な「言語の遅れ」に見える現象
バイリンガルの子どもは、両方の言語で一時的にモノリンガルの子どもより語彙数が少ない時期があります。しかし、両言語を合わせた総語彙数では、モノリンガルの子どもと同等かそれ以上であることがほとんどです。
本当に支援が必要なケース
以下のような場合は、スピーチパソロジストに相談することをお勧めします:
- 両言語を合わせても、年齢相応の言語発達が見られない
- コミュニケーションの意欲が低い
- 発音の不明瞭さが著しい(90%以上理解されない)
- 指示の理解が著しく困難
- 社会的コミュニケーションに大きな課題がある
今からできる!家庭でのサポート方法
入学までの期間、今から始められることがたくさんあります。
1. 日本語での豊かな会話を続ける
なぜ大切?
- 思考力の基盤を作る
- 抽象的な概念を理解する力を育てる
- 感情や考えを深く表現する力を養う
具体的な方法:
- 絵本を読んで、内容について話し合う 「どうしてそうしたと思う?」 「次は何が起こると思う?」 「あなただったらどうする?」
- 今日あったことを順序立てて話す練習 「まず何をした?それから?最後は?」
- 「なぜ?」の質問に理由を説明する練習 「どうして公園に行きたいの?」→「〜だから」
2. 複数ステップの指示を与える
練習方法:
- 日常生活の中で3-4つの指示を出す 「お風呂のおもちゃを片付けて、パジャマに着替えて、歯を磨いてね」
- ゲーム感覚で 「宝探しゲーム:リビングに行って、クッションの下を見て、そこにあるものを持ってきて」
3. 条件文の理解を深める
練習方法:
- 「もし〜なら」ゲーム 「もし雨が降ったら、何をする?」 「もしお腹が空いたら、何を食べたい?」
- ボードゲームのルール 「もしサイコロで6が出たら、もう一回振れるよ」
4. 物語の理解を深める
練習方法:
- 絵本を読んだ後に質問する 誰が(Who)? 何を(What)? どこで(Where)? いつ(When)? なぜ(Why)?
- 物語を一緒に作る 「次はどうなると思う?」 「このキャラクターはどんな気持ちだと思う?」
5. 語彙を豊かにする
避けるべきこと: 「これ」「それ」「あれ」ばかり使う
推奨: 具体的な名詞を使う
- 「それ取って」→「赤い鉛筆を取って」
- 「あそこに置いて」→「テーブルの上に置いて」
方法:
- カテゴリー分けゲーム 「果物の名前をいくつ言えるかな?」 「動物の名前は?」
- 反対語を学ぶ 「大きいの反対は?」
6. 発音の練習(必要に応じて)
無理強いはNG。楽しく、遊び感覚で。
方法:
- 鏡を見ながら口の動きを確認
- 歌を歌う(言葉のリズムと発音の練習)
- 早口言葉遊び
いつ専門家に相談?
- 本人が発音を気にして話すのを嫌がる
- 明らかに年齢不相応な発音パターンがある
- 音を省略したり置き換えたりが多い
7. 英語の準備も忘れずに
家庭で日本語を大切にしつつ、英語にも触れる機会を:
- 英語の絵本の読み聞かせ
- 英語のアニメや歌
- プレイグループやキンディでの英語環境
- 英語での簡単な指示や会話
バランスが大切です。日本語:英語の比率は家庭の状況によりますが、一般的には家庭では日本語をしっかり、外(学校・コミュニティ)で英語を、というアプローチが効果的です。
入学後も続くバイリンガルの旅
入学はゴールではなく、スタートです。
Foundation/Prep以降も大切なこと
日本語力の維持・向上
- 学校が始まると、子どもの生活の大部分が英語になります
- 意識的に日本語の時間を作る必要があります
- 日本語の読み書きも少しずつ始めましょう
英語の学習言語力の発達をサポート
- 学校で習ったことについて日本語で話す
- 日本語での理解が、英語での理解を助けます
- 抽象的な概念は日本語で説明してあげることも有効
文化的アイデンティティの形成
- 日本の文化や価値観を伝える
- 祖父母や日本の親戚との交流を大切に
- 日本語コミュニティとのつながり
よくある課題と対処法
「子どもが日本語で話すのを嫌がるようになった」 → 無理強いせず、親は日本語で話し続ける → 日本語で楽しい活動をする(ゲーム、料理など) → 子どもが英語で答えても、親は日本語で返す(OPOL: One Parent One Language戦略)
「学校の勉強についていけるか心配」 → 学校の先生と連携する → 必要に応じてESL(English as a Second Language)サポートを利用 → 家庭では概念の理解を日本語でサポート
「発音やアクセントが気になる」 → 時間とともに改善することが多い → コミュニケーションが取れていれば問題なし → 気になる場合はスピーチパソロジストに相談
一人で悩まないで:サポートを活用しましょう
バイリンガル育児と就学準備、不安に思うことは当然です。
こんな時は専門家に相談を
- 言語発達に明らかな遅れがある
- 発音が不明瞭で理解されにくい
- 指示の理解が難しい
- 社会的コミュニケーションに課題がある
- バイリンガル育児について具体的なアドバイスが欲しい
スピーチパソロジストができること
- 両言語での総合的な評価
- 個別の発達プログラムの作成
- 家庭でできる具体的な練習方法の提案
- 学校との連携サポート
- バイリンガル育児についての助言
特に日本語が話せるスピーチパソロジストなら:
- 日本語でしっかり相談できる
- 日本の文化的背景を理解した上でのアドバイス
- バイリンガル発達の正確な評価
- 家族全体(日本の祖父母も含む)をサポート
まとめ:自信を持って入学の日を迎えるために
バイリンガルの子どもの就学準備で大切なこと:
✅ 両言語の総合力で子どもの発達を見る
✅ 家庭では母語(日本語)でしっかりコミュニケーション
✅ 日常会話だけでなく、学習言語力の基礎を育てる
✅ 今からできることを楽しみながら実践
✅ 心配なことは専門家に相談
2つの言語、2つの文化を持つことは、お子様への最高の贈り物です。自信を持って、バイリンガル育児を続けてください。
そして、困った時は一人で抱え込まず、サポートを求めてくださいね。
オーストラリアでの新しい学校生活が、お子様にとって素晴らしいスタートになりますように。
ご相談・お問い合わせはこちらから





